『これ、捨てていいの?』と妻の声。
振り向くと、そこには一個の赤い箱。
久しぶりに手に取ってみた。。
15才で天命を全うした妹との思い出が詰まった箱。
小児がんと闘った妹。
僕が剣道をやり始めると妹も母におねだりをして、一緒に道場に通った。
ショートカットの髪の毛、男勝りの性格、とにかく活発だった。
ひとつしか違わない僕と妹は、兄と妹というより、双子みたいだった。
ある日、剣道の練習中に「体に力が入らない」と、訴えた。
それが、病気との闘いの始まりだった。
とても暑い日で、その暑さのせいだと思った。
微熱が続き、病院へ行くと『夏風邪』と診断された。
ところが、一向に良くならない。
大学病院での検査を受けて、そこで告げられた病名は『小児がん』
母親が、身を乗り出して「助かるんですよね?先生、助かるんですよね?」と、迫る姿を見て、この場面はテレビの中のワンシーンだ、現実ではないのだ、
と、とても冷静に自分に言い聞かせる僕がいた。
入院して、半年くらいで妹は旅立った。
千羽鶴がたくさん飾られた部屋で、最期のその日、父と母と一緒に号泣した。
人の命ってこんなに呆気ないものなのかと、僕は命の儚さを知った。
妹と一緒に撮った写真。
全部笑ってる。どの写真も笑顔がはじけてる。
同じ家に住み、同じ物を食べ、一緒に寝て、一緒に遊んだ。
何の違いがあって妹だけが死んだのか・・・僕には分からなかった。
お葬式の後、妹との写真を赤い箱にしまった。
ああ、赤い箱よ。
久しぶりにお前の笑顔を覗いてみるか・・
お前はずるいな、年をとらないんだな。永遠の15才か。
お前があっちにいったから、兄ちゃんの俺は2倍頑張ることになったんだぞ。
たまには、一緒に酒を飲みたかったな。
俺の子を抱いて欲しかったし、お前の子を抱きたかったぞ。
もう、25年も経つんだな。
お前の部屋はあのままにしてあるよ。地区大会で優勝したトロフィーや、賞状や、団体戦のパネルが色褪せながら飾られているよ。
みんな、お前がいなくなったと思っていないからな。
お前の仏壇は、日本一贅沢だと俺は思う。いつもいつもどれだけお菓子やジュースが並んでいることか。
今でも、お前の友達がやってきては母さんの相手をしてくれているからな。ありがたいよな。
命はたったひとつだな。
お前は二度と帰ってこなかったんだから。
与えられた命をお前は精一杯生きたからな。
父さんも母さんもだいぶ弱ってきたけれど、まだ呼ぶなよ。
俺の大切な人たちがいなくなるのは、もうごめんだ。
頼むよ、15才で死んでしまったお前に、俺からの頼みだ。
兄ちゃんもまだまだ頑張るぞ! たったひとつの命だから。
埼玉県 41才男性