一般社団法人ワンライフプロジェクト

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ちはるおばちゃん

あなたが逝ってしまって 10年が経ちました。
あの暑い夏の日を私は今でもはっきりと覚えています。
中学1年の夏休み お祭り明けのすがすがしい朝。
買ってもらったばかりのテニスラケットを胸に、私はあなたを待っていました。
約束の時間になっても一向に現れないあなたを 私はひたすら待っていました。
家のロータリーに飛び込んできた母の車の急ブレーキ。
お祖父ちゃんの家から聞こえた悲鳴。
それは今も私の耳から消えることはありません。
あなたを送れなかった私をどうか許してください。
変わり果てたあなたを見る勇気など あの頃の私には無かった。
私は あなたになりたかった。
誰にも愛され、誰よりも強く、笑顔の美しい貴女のようなひとに。
何も言わず 暗闇に座り込むおじいちゃんの背中
初めて見た父の涙
それは今も 私のまぶたから消えることはありません
夏休みの終わりの日 一人で行ったテニスコートで 私は初めて泣きました。
あなたがいなくなったことを確かめるのが怖くて流せなかった涙が溢れて 止めることができませんでした。
先日 おじいちゃんが私を「ちはる」と呼びました。
振り返ると とても困ったような顔をしていました。
ちはるおばちゃん
私はあなたに似てきたようです。
でも 私はあなたにはなれません。
どんなに憧れても どんなに頑張っても どんなに愛しても。
だけど 私のこの命もたった一つの命だから かけがえのない命だから
あなたが愛した人を 私とあなたを愛してくれるひとたちを
あなたの分も 私は愛して生きようと想うのです。

秋田県 20代 (井上 望)